月別アーカイブ: 7月 2019

乳腺科で感動

長く生きていると体もあちこち故障して(といっても、軽い故障ばかりなので大層なことではないが)、今年に入ってから検査ばかり受けている。

先週は内視鏡検査で胃の粘膜をチェック。麻酔が注入された…と思った瞬間にはすでに爆睡状態で、次に目覚めた時には別の部屋で、ナースが明るい声で “Wakey, Wakey, Rise and Shine” と言うのが聞こえて、「うるさいな~、もっと寝させてよ」とすごく腹が立ったのであった。普通より半分の麻酔で、1時間以上ぐっすり寝ていたらしい。どこでもよく寝る私である。

検査結果は深刻なものではなかったので、摂取するものと量に気をつければ良いだけか…これが近頃、難しい。

そして、今日は乳腺科で生検。6月にマンモで右胸に白い影があったため、2週間前に再び違う角度からマンモ+超音波検査。そして、やはりよく見えないため、今日はハイテク機器の揃った、違う系列の病院でセカンドオピニオンも兼ねて、さらに3Dマンモ+超音波検査+生検。すでに左胸にはいくつも良性のしこりを長期にわたってキープしているので、右側も同じようなものであろうと心配はしていないが、明日、連絡が来る。

その左胸の診断は10年以上前に日本の乳腺科で行ったが、あの時は私も若かったこともあり、初めての生検で緊張した。さらには、その生検が痛くて痛くて…私の胸の組織が予想以上に採取しづらいということで、担当医師が何度も失敗し、その間に麻酔が切れ、さらに追加して…と1時間近くかかった覚えがある。あれは医師の技術不足だったのだと今では思うが、とにかく、検査の跡も3針分の穴が開いて、治癒に時間がかかった。

今回は乳がん関連の検査技術がずっと発達しているアメリカなので、そんな痛い思いはしなくて済むだろうと楽観的な気持ちでクリニックに行ったが、痛いどころか、至れり尽くせりのクリニックで、入った瞬間から何だか幸せな気分に(笑)。

クリニックといっても、同じ予約時間に50人ぐらいの患者がいるのではないかと思われる病院だが、まず、扉が開くと、受付の前に案内係の人が立っていて、名前を尋ねられ、それぞれの患者の状況に従い、窓口1~8番に案内される。こんな日本並みの「おもてなし」をアメリカで体験したのは初めてである。

そして、すぐに中に呼ばれるが、最初に出迎えてくれたのが、(通常はナースだが)今日は患者アドボケイトのボランティア。個室で乳がん患者関連の資料を渡されて、施術の大まかな説明を聞き、医療従事者に出会う前に尋ねたいことがあれば、質問するように言われた。そして、彼女にロッカーまで連れて行ってもらい、ガウンに着替えた後は、ロッカー横の素敵なクラシック音楽が流れる待合室で(通常の病院では、普通、テレビが大音量で流されていることが多い)30余名の女性たちに加わる。そこでも、ボランティアの人が1人いて、患者の相談に乗ったり、飲み物を配ったりしている。

そして、さらに、驚いたのが、医療従事者側の配慮。マンモと超音波を受け、医師と話をしてからマンモグラフィガイドの生検へと移ったが、この生検は胸の部分がくりぬいてあるベッドにうつぶせに寝る形式であった。ベッドが高く持ち上げられて、その下で医師が作業を行うので、患者には何をやっているのか全く見えない。その間の不安を払拭するためであろう。1人、マンモ技師だと思われる人が「説明」のために部屋に来てくれて、私の顔のすぐ傍に立って、医師とナースが行っていることを逐一説明してくれる。

医師もナースも、それぞれが何を行うのか説明してくれるので、3人が数秒おきに同じことを説明していることもあるが、この患者への配慮に非常に感動した。私は「また、左胸と同じようなものだろう」とまったく心配もしないでクリニックに行き、アメリカに来てからは検査で痛みを感じたことがないため、検査にも不安がなかったのに、こんなに丁寧に説明係までつけてもらって申し訳ない気持ちだった。

生検の後は、最後にもう一度、マンモ撮影があったが、それを待つ間にはお腹がすいただろうとクラッカーや飲み物まで持って来てもらい、さらに疲れているだろうからとロッカーから服まで取ってきてくれた。その時点で生検の跡もほとんど痛みがない私は、自分で全部できるがなぁ…と高級スパか何かに迷い込んだような気分。とても心地よいクリニック体験だった。

もちろん、私と家族は医療保険に入っているから、こうしたクリニックに通えるのであり、アメリカの医療制度がすべて良いとは思わないが、医療従事者のレベルについては、やはり日本よりアメリカのほうが格段上のように感じる。「レベル」というのは技術的なことだけではない。患者への配慮に対する仕組みが日本はイマイチのような気がする。個々の医療従事者の中には、病気自体ではなく、本当に患者のことを考えてくれている人も大勢いるが、時間に追われて患者の不安な気持ちにまで付き合えないのが今の日本の医療だろう。

今日、このクリニックを見て、私の母が乳がんの治療をここで受けていたら、母が抱えていたほとんどの治療にまつわるストレスは不必要なのではなかったか、と感じた。検査を受ける前の疑問、検査中の疑問、検査後の疑問、治療に入ってからの疑問、それぞれの段階で回答をくれる、それぞれの役割を担う人々が揃っているように見受けられた。

アメリカで最初に創設された乳腺科専門クリニックということであるので、他に比べてずっと優れているのかもしれないが、患者の不安を先回りして払拭してくれる感動的な空間であった。いつもお世話にはなりたくないが、家から10分もしない場所に、こんな素晴らしいクリニックがあり、ラッキーである。